冬
冬も深まってなんだか分からなくなってくる日々。一年中が冬のように感じていた日々。寒いなかに埋没して、思考が灰色になり、閉ざされ、閉じ込められ、閉鎖される。冬の明け方に、私は近くの川を見に来た。コートを着て、マフラーも巻いて、帽子をかぶり、手袋をつけ、完全防備で。
空は灰色でまるで世紀末だ。川も薄紫でまるで毒の川だ。大きな橋の欄干部分にもたれかかり、私は少しだけ口角を上げて、ぼーっとしていた。死ぬつもりだった。
死んでも生まれ変われる。三島由紀夫の豊饒の海4部作を読めば分かる。今度生まれ変わったら、マハラジャの娘になって、俗世とはかけ離れた暮らしをするのだ。パリス・ヒルトンみたいな。
渦をつくっている。川はゆるやかな流れのなかで、小さな渦をたくさん作り出す。小さな渦・・・私はふと、ナタリー・デセイの歌うアリアを思い出す。細くて強い声、繊細で硝子のように壊れやすい声。超絶技巧、高音。
ひとたび始まってしまえば、終わることのない日々なんてありえないのに、そう思ってしまうことが不思議だ。私が通う箱のなかには憎悪や嫉妬が満ち溢れていて、透明なものなんて何ひとつない。この冬が終わらないように、この川が尽きないように。
「あんたなんて、大嫌い。死んでしまえばいいのに」
終わらない憎悪、終わらないよ。手向けられた花の白さ。逃避行は容易くない。赤いペンでいつも書いていた。春は来ない。春は来ない。ずっとこの陰鬱で、けれど力強く暖かい日々が続くだけ。地面のなかで何かが揺れ動く音がする。でも芽は出ないんだと。
太陽が姿を現す。
でも私は、朝が来たとは思わなかった。ただ、夜が終わったと思ったのだ。
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